研究内容

小林研究室では量子エレクトロニクス、特に最先端レーザーの研究開発とその応用研究を行っています。 レーザーを自由に設計し開発することにより今までになかった新しい分光法を開拓していきます。

レーザーが発明されて40年間、スペクトル純度を究極に上げてゆく方向性と、パルス幅を極限まで短くする(スペクトル幅を広げることに相当します)方向性と、 まったく逆の二つの方向を向いてレーザーテクノロジーは発展してきました。前者からは原子分子の超精密分光、原子冷却、ボーズアインシュタイン凝縮などへと発展しました。

一方、時間幅を追求した分野ではフェムト秒パルスによる超高速現象の解明や、 高いピーク強度を使って非常に高次の非線形効果を起こす高強度物理が発展しました。

2000年にこれら逆を向いていたテクノロジーが融合され、新たな展開を迎えることになりました。 周波数領域では光周波数コムがcwレーザーとフェムト秒レーザーとの融合によりでき、時間領域ではレーザーパルスの光位相(キャリア位相)がコントロールできるようになったのです。

これにより、光位相が精密に制御された極短パルスレーザーによる高次の非線形光学効果を駆使した光科学がこれから発展すると考えられます。 小林研究室ではこの光科学の新展開をさらに発展させ新たな研究分野を築いていこうとしています。

例えば、光格子時計用光周波数コムの研究、高次高調波による広帯域非線形分光、 高強度-超精密分光、コヒーレントXUV分光から、分子の精密分光、星の精密分光、高次高調波による精密光電子分光法の開拓まで、応用範囲は実に広い分野にまたがります。

レーザーの種類、応用範囲が多岐にわたるため世界中と共同研究しています。東大以外では特に米国標準研究所(NIST)やドイツマックスプランク光量子研究所(MPQ)と仲良く競っています。


高繰り返し高強度Yb:ファイバーレーザーシステムの開発
80 MHz, 200 fs, 45 W のレーザーシステムを研究開発しました。 外部共振器でこれを増強させ、フェムト秒で10 kWの平均パワーをめざします。平均強度がkWのフェムト秒レーザーは今までは考えもつかないものでした。 現在までに共振器の内部パワーは5kW程度に達しています。
10 MHz, 200 fs, 23 W のレーザーシステムを研究開発しました。 上記に比べ繰り返しが一桁小さいレーザーなのでパルスエネルギーがその分大きくなっています。このレーザーを集光するだけで10/14 W/cm2の集光強度が得られます。 高次の非線形現象を超高繰り返しで測定できるようになったのです。
高繰り返しコヒーレントXUV光発生
上記レーザーを希ガスに集光することにより、7倍高調波~21倍高調波を発生させる計画です。 現在までに19次高調波の発生を確認しました。これは波長にすると54nmに相当します。 フェムト秒のXUV光源であると同時にXUVの光周波数コムになっていることが期待されます。
コヒーレントXUV光励起光電子分光
辛研究室へこの高次高調波を提供し、光電子分光によって物質の電子構造を調べます。 これにより、高温超伝導や光誘起相転移のなぞに挑みます。 現在までにKBBFという特別な非線形光学結晶を用いて結晶による波長変換では最短波長の153nmのコヒーレントVUV光発生に成功しています。
高調波科学
高次高調波はその発生機構から電子のアト秒ダイナミクスと密接にかかわっています。 高調波発生はその利用研究とともに、発生機構にまつわる部分で未解明の部分が残っています。 たとえば、高次高調波は基本波のコヒーレンスを本当に受け継いでいるのか?という疑問はXUV光周波数コムの実現において非常に重要です。
光周波数コム
高繰り返しモード同期レーザーのスペクトルは縦モードと呼ばれるシャープなスペクトルが規則正しく並ぶ櫛のような形をしています。 この規則性を使うと光周波数とRF周波数とを結ぶ歯車を作ることができます。 縦モードはフェムト秒レーザーのスペクトルに10万本並んでいるため、これを巧みに使う新しい研究が発展してきています。 当研究室ではYbファイバーレーザーを使った光周波数コムの研究を行っています。 この光周波数コムの応用として、光原子時計に用いるほか、分子の精密分光や星の精密分光を考えています。
実験室
デュアルコム分光
繰り返し周波数がわずかに異なる2つの発振器を用いると超精密でなおかつ広帯域・高速な分光ができます。 2つのビートをとることにより光周波数をRF周波数に変換することで通常のスペクトラムアナライザーで光周波数の分光ができるためです。 本研究室ではデュアルコムを簡便に行う方式をデモンストレーションしました。応用としてファイバー歪センサーを高感度かつ広帯域に使えることを示しました。 また、デュアルコムを用いたドップラーフリー分光のデモンストレーションも行いました。
実験室
分子の精密分光
フェムト秒パルスを外部共振器にため込むことにより、高感度、超高精度の分子分光ができます。その先には医療に結びつく可能性があります。 そのために高繰り返しで中赤外の光周波数コムを作ることに取り組んでいます。
天文応用
高繰り返し光周波数コムは天文台で分光器の精密な校正に用いられると期待されています。そのためには超高繰り返しの光周波数コムが必要です。 現在長期に安定して動く超高繰り返し光周波数コムを固体レーザーベースで実現すべく取り組んでいます。

実験装置

実験室
フェムト秒Ybファイバー発振器
~30フェムト秒のパルス幅を持つ100 MHz繰り返しのパルス列を発生させます。ファイバーレーザーで30fsパルスを発生できます。2012年6月現在、ちょっと数えてみたところ14台の自作フェムト秒ファイバー発振器がありました。2014年4月の時点では17台に増えていました。さらに2台作成中です。
Ybファイバー増幅器
大小様々な増幅器を研究開発しています。大きいものは~200 Wのレーザーダイオードでダブルクラッドファイバーを励起して60 W程度の出力を得ます。透過型回折格子で増幅されたパルスは高効率に圧縮されます。 80MHzシステムのほかに、10MHzシステムも完成しました。これからは2つの大型YbファイバーCPAシステムを用いて高繰り返し高強度物理の実験が進められます。2012.6現在またまた数えてみたところ、研究室に17台の自作ファイバーアンプがありました。2014年4月にはこれがなんと30台に増えていました!ちょっと増えすぎですね。

エンハンスメント共振器
増幅されたパルス列は外部共振器(エンハンスメント共振器)にどんどん蓄積されていきます。 内部では入射パワーの100倍以上に増幅され、高繰り返しを保ったまま高強度物理の実験ができます。 つまり、超精密分光と高強度物理の接点がこの装置で生み出されます。 共振器内ではkW以上のフェムト秒パルスが集光され、10^13 W/cm^2以上の集光強度が得られます。ここで高次高調波発生が80MHzの繰り返しで実現しています。
大型10MHzレーザーのエンハンスメント共振器を作ってしまいました。10MHzのパルス間隔は距離にして30mです。 つまり、外部共振器も共振器長が30mになるわけです。物性研究所には大型の装置を開発するスペースがあるために実現しました。 1桁大きい共振器を開発したため、パルスエネルギーも1桁大きくなります。 高次の非線形現象の確率は飛躍的に大きくなるわけです。ここから生み出されるコヒーレントVUV光源は他ではできない実験を可能にします。 高次高調波のパワーも桁違いに強くなり、2014.4現在では世界で一番強いコヒーレントVUV光源となっています。
レーザー制御装置
レーザーの精密制御には電子回路は欠かせません。共振器長を驚異的に精密にコントロールするのは楽しいのです。 どんどんマニアックな回路作成装置が充実してきました。CADで書いて工作機械で基盤を作成します。
ピコ秒ファイバーレーザーシステム
30ピコ秒のハイパワーレーザーシステムです。結晶を用いてこれの7次高調波を発生させます。コヒーレントVUV光源は超精密分光や超高エネルギー分解光電子分光に用いる予定です。 現在までにKBBFという結晶を用いて2次の非線形光学効果として位相整合のとれた結晶からの波長変換では世界最短波長の153nmを発生させています。 これは光子エネルギーにして8eVで、精密光電子分光に用いる予定です。
超高繰り返し固体レーザー
高繰り返しのカーレンズモード同期レーザーを研究開発しています。 繰り返しが4GHzを超えると光周波数コムの1本1本が本当に分解できるようになるため、フェムト秒レーザーを使った超精密分光が可能となるはずです。最近4.6GHzのYb:KYWレーザーに引き続き6GHzのYb:Lu2O3レーザーが完成しました。 今後このコムを用いた分光へと進みます。本当にモード同期レーザーの縦モード一本をcwレーザーとして用いる分光が今後可能となるはずです。 LD励起, multi-GHz繰り返しモード同期レーザーは市販にはありませんので、ユニークな実験の考案を楽しむことができます。GHzの固体レーザーは2014.4現在5台あります。
産業用レーザー
NEDOプロジェクトとして次世代半導体リソグラフィー用のレーザーを開発しています。 DUVコヒーレント光はレーザー加工などさまざまな場面で活躍するはずです。
その他
基本的にここに来た人には最初の数カ月で何台かレーザーを作ってもらいます。発振した時とモード同期がかかった時の喜びをぜひ味わってみてください。 毎年新人は1カ月程度でにフェムト秒発振器を作り上げています。自分のフェムト秒レーザーで分光するのは楽しいのです。 最近は中赤外の領域に研究対象を拡大しつつあります。分子の指紋領域で高感度・高分解能分光が可能となると医療・環境応用が広がります。

   回路基板作成機、ガラス基板の切断機、研磨機、洗浄機、レーザー加工機などの特殊加工装置も整えつつあます。